贈与税の改正(相続コラム58)

不動産相続について

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本日お話しするのは令和6年度贈与税の改正について。


日本人の金融資産の実に6割以上60代以上の高齢者が保有しています。
統計なのでばらつきもありますが、直近の数字で2,000兆円を超えていたと思います。
子育ても一段落して、年金生活に入っている人も多いと思いますが、
経済をけん引すべき現役世代よりも多く金融資産を保有しているようです。

相続のご相談でも「年金だけでは心許ないから働いている」という方も多いので、
60代は現役世代と言っても差し支えないかもしれませんが、
30代~50代という一番お金を必要とする世代にその資産を移転できれば、
『消費が活性化して経済が良くなる』と考えられています。

贈与の非課税枠を大きくしたり、子ではなく孫にもその対象を広げるなど、
さまざまな法改正を繰り返していますが思うような成果が上がっていないようです。


今回の改正では、相続時精算課税制度に、新たに「年110万円の基礎控除」の枠が加わることになります。
2024年1月1以降、相続時精算課税制度を選択した人への贈与でも、
年110万円までなら贈与税も相続税もかかりません
贈与税の申告も不要になります。


ただ、贈与者が生前贈与をしてから3年以内に亡くなった場合
「相続又遺贈で財産を取得した者」が相続発生前3年以内に贈与を受けた財産は、
相続税の課税対象財産に加算して相続税を算出・納税する必要があります。

この「相続税の持ち戻し」の対象期間(「相続税の加算期間」とも言います)を
「3年」から「7年」に延長するというのが今回の法改正の重要ポイントです。


本来の相続時精算課税制度の基礎控除額は2,500万円でした。
今回の改正ではこの制度の中に新たな基礎控除枠110万円を設けるという内容です。

相続時精算課税制度を選択しても、この110万円は「相続税の持ち戻し」の対象から外れます。

一度、相続時精算課税制度を選択すると暦年課税制度を活用できなくなる点は変更ありません。
このあたりは、非常に難しいので専門家のアドバイスを受けながら活用してください。

国としては、一刻も早く高齢者から現役世代に資産を移転してもらいたいのではないかと思います。
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高齢者の現役世代と違い、終身雇用制は終わりを迎え、勤続年数と給与が連動しない会社が増加しています。
派遣労働という名の下で、不安定な環境で働いている方も多くいます。
人材の流動性を高めるとか、生産性を向上させるなど当初の目的は果たせたかもしれませんが、
全体的にみて今の現役世代の労働環境が果たして目指したものであったのかは不明です。
むしろ幸福と感じる日本人が少なくなったと言われているくらいです。

そんな大変な思いで子育てをしている現役世代と、
年金を受給しながら金融資産を保有している高齢者のバランスを見て、

資産の移転を促すために施行されるのが今回の贈与税に関する改正のように思います。

デフレを脱却してインフレ気味に進んでいる日本経済と給料の上がらない現役世代、
一方で年金の受給額が減っているという話も聞きますので、
「何歳まで生きる」かわからない中で、高齢者も安易に贈与して金融資産が減ってしまうのは恐怖なのかもしれません。

高齢者が安心して暮らせるような社会システムが構築されていない以上、
少々の法改正ではどこまでの効果が期待できるかもわからないかもしれません。


そもそも贈与税という税金は相続税を補完するような意味合いもあると思います。
「生前に贈与すると税金をたくさん取られる」と単純に思い込んでいる方も少なくありません。
相続相談でもよくそのような思い込みを耳にします。
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そう考えると、親のエンディングまでの道筋が見えれば
単にたくさんの資産を保有するということではなく、何が正解かを考えることもできます。

親子の間でそのようなことをたくさん話し合うことで、
適切なタイミングで資産の移転を考えられるのではないでしょうか。


贈与税の非課税枠などについても、概要を把握してプランを考える、
この程度で家族間の話し合いを行い、実行段階では専門家に相談する。

このようなプロセスで検討してみてはいかがでしょうか。


不動産などが絡んでくると一気に話の難易度が上がりますが、
わたしたち不動産会社にご相談いただければ、専門家と協力して、
ワンストップで様々なご提案をさせていただきます。






この記事を書いた人

伊藤明灯戸

不動産業界に30年以上。
相続に関しての相談実績が豊富で、家族信託を得意としています。
財産の管理を行うステージ、財産の承継を行うステージに分けて問題点を抽出し
家族構成、資産構成に合わせご提案をしています。
宅建士、コンサルティングマスター、相続対策専門士、家族信託コーディネーター。
悩んでいることがありましたら、ぜひ聞かせてください。